大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和27年(う)462号 判決

一、昭和二十四年四月頃前記日形村なる自宅において擅に現金五、〇〇〇円を引出し着服

二、同年八月頃前記自宅において擅に現金二四、〇〇〇円を引出し着服

三、同二十五年五月末頃前記自宅において擅に現金一六、一八七円を引出し着服

横領し以つて自己の生活費等に費消したものであるというにあり、之に対し原判決は「犯罪の証明十分でないから」という理由で無罪の言渡しをしているのである。ところで、右三回着服横領についての訴因の叙述は右に摘示のとおりであり、検察官の証拠調べの冒頭陳述、その他原審におけるすべての陳述を検討しても右横領が具体的にどんな事実を指すものか必ずしも明らかではないが、検察官が本件全事実の立証として提出した被告人の供述調書中には、

(1) 昭和二十四年四月頃日形村地内の県道築館から割山迄の砂利引工事の際、砂利採集人夫磯田達雄に対する砂利代五、〇〇〇円を支払う際収入役から五、〇〇〇円借りて支払つた。その支払の責任は道路組合が負うていたのである。処がその借受けた五、〇〇〇円に道路組合の収入として帳簿に記入することなく、間もなく組合の金から他の借金と併せてその五、〇〇〇円をも加えて同年六月頃収入役に五〇、〇〇〇円支払つた。その返済後五、〇〇〇円の金は組合上余分の金になつたので、その頃私はその五、〇〇〇円を自分の日形村助役として必要であつた交際費や或いは出歩るく費用等に使つたのである旨。

(2) 昭和二十四年六月頃一ノ関土木事務所から藤沢花泉線県道の日形村内常山岳外二ケ所の工事費として二五、〇〇〇円を道路保護組合が受取り、之を私が同組合の経理係として保管していたが、同年七、八月頃北上川の堤防工事を請負つていた古川土木株式会社日形出張所長松村重三郎から、右堤防工事に畠の土を譲つてくれた人々に記念品として瀬戸火鉢をやりたいから五十箇程用意して貰いたいと頼まれた。そこで、一箇四〇〇円乃至五〇〇円の瀬戸火鉢を五十四箇であつたか五十六箇であつたかを買つた。処がその代金二四、〇〇〇円を私の方から貸してやることにした。それで私はその金を前述の道路組合の金二四、〇〇〇円から組合長にも断らないで、無断で引出して古川土木に貸したことにして私が使つた。つまり古川土木に金をやらずに私が保管していた金を私が使い、古川土木は私から借りたことにし、私はその金で火鉢を買つたのである。その後本年(昭和二十五年)十月頃古川土木から一二、〇〇〇円返済して来たが、その中七、四六〇円だけを残して其の他は私が出歩く旅費や交際費に自宅で使つた旨。

(3) 昭和二十五年五月末頃一六、一八七円を無断で引出して自分の用途に使つた。この金は、本年三月県道の砂利工事費として一ノ関土木事務所から道路組合に二三、七八七円来たので、その中砂利を運搬した自動車の賃金として一六、一八七円を残し、その他は人夫賃等に支払つた。右の自動車は村長の私有自動車であつたので、その賃金は私が村長に支払う事にして預つている中に使い込む気が起き、それから七、八月頃迄の間に家計の費用に三、〇〇〇円位、交際・出歩く費用等に使つてしまつた。村長から自動車賃の請求があつたが、後日精算するといつて置いた。それは私の方からも村長に五、〇〇〇円貸しがあるのでそれで精算するという考えもあつたからである旨。等の供述記載があり、検察官がこの供述調書の証拠調べを請求した趣旨は、右供述記載中(1)の部分を以つて訴因一、(2)の部分を以つて訴因二、(3)の部分を以つて訴因三の各立証としたものと推察される。

ところで、右供述記載の一の部分には訴因一にいう如き金五、〇〇〇円の支払又は費消としては、被告人が昭和二十四年四月頃日形村収入役から借入れた金五、〇〇〇円砂利取人夫賃として磯田達雄等に支払つたことと、右収入役からの借入れを帳簿に記載しなかつたのにその返済を記入したため、帳簿上五、〇〇〇円だけ余分の金を生じたので、同年六月頃、五、〇〇〇円だけ自己の用途に費消したことの二つの事実が述べられているが、原審検察官が、訴因一の立証として申請した証人増子清一郎、同菅原幸雄の尋問事項中で専ら右砂利取人夫賃支払のことを問題にしていること及び訴因が犯行の日時を昭和十四年四月頃としていること等から推して、訴因一の五、〇〇〇円の横領は右砂利取人夫賃として五、〇〇〇円を支払つたことを指すものと解するのが相当である。ところが原審証人増子清一郎、同菅原幸雄に対する各尋問調書及び押収の証第七号(菅原幸雄作成の受領証)を綜合すれば、右金五、〇〇〇円の砂利取人夫賃の支払は被告人が日形村道路保護組合の経理係として同組合の債務を支払つた正当な支出であることが明らかであるからもとより罪となるものではない。原審がこれを犯罪の証明なしと認定したのは正当で、論旨の内その点に関する部分は理由がない。

次に、前記供述記載(二)の部分の通りの事実関係とすれば、被告人は日形村道路保護組合が一ノ関土木事務所から受領した工事費二五、〇〇〇円を保管中、昭和二十五年七、八月頃、組合長には無断で古川土木株式会社日形出張所に対し、同会社が日形村で請負つた土木工事につき用土提供者に工事記念として贈与すべき火鉢数個の購入資金として右金二五、〇〇〇円の内から二四、〇〇〇円を支出して之を右会社に貸付けた。(尤も之を被告人が個人として貸付けたものか組合として貸付けたものかは必ずしも明らかでない。)但しその金は右会社には渡さず、被告人が同会社のため右の火鉢を調達してやることを引受け、右資金はその火鉢調達のため事実上被告人自身が使用したことに帰するから、右の貸付が被告人個人の貸付である場合には横領罪を構成することは勿論、組合の貸付であるとしても、被告人がかような貸付を独断でする権限があつたかどうか。又その貸付が組合のためにしたものか、右会社のため又は被告人自身のためにしたものかどうか等の事情如何によつて横領罪の成立する場合があることは疑をいれない。ところが、原審検察官は訴因二に関し、右の如き事実関係がどうであるかという点を全然主張せず、又その立証も前記供述調書以外のもので右の諸点にふれたものは全く存しない。さればといつて被告人及び弁護人の立証によつて前記の事実につき横領罪の成立を認める余地がないことが明らかになつているわけでもない。(中略)

次に前記供述調書中の供述記載(三)の部分によれば、被告人が昭和二十五年五月末頃、一ノ関土木事務所から日形村道路保護組合が受取つた工事費二三、七八七円を保管中、一部を正当に支出した残金一六、一八七円を擅に自己の用途に費消すべく決意し、その頃から同年七、八月頃迄の間に之を自己の用途に費消したことが明白で、これが訴因三に該当することは疑いがない。しかるに何故か、検察官はこの点についての補強証拠の提出をせず、弁護人はその事実自体は争わず、むしろ之を肯定した上でその情状の立証を試みている次第で、弁護人の反証によつて、右横領の事実を認め得ないことが明らかだということでもない。

之を要するに訴因二及び三については検察官は殆ど立証を試みず、さればといつて被告人弁護人の立証によつてこれらの事実を肯定することができないということになつているわけでもない。ところが、訴因二、三の事実が前記供述調書によつて認められる事実であり、かつ、それが真実であるとすれば、之に照応する補強証拠を得るのはさして困難でないということは、前記供述調書の記載からも之を窺うことができる。以上のような状況にある場合、裁判所としては検察官に対してその立証を促し、必要によつては職権に因つて証拠調べをすることも当然の職責である。しかるに記録によれば原裁判所は何等このような措置に出ず、漫然犯罪の証明不十分と認めたのであつて、審理不尽のそしりを免れず、かつ、その違法が判決に影響を及ぼすことは明白であるから、原判決中訴因二及び三につき無罪を言渡した部分は破棄を免れず、論旨の内この部分は理由がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!